ファミリー・ランゲージ・ポリシー(Family Language Policy)研究とは

 ファミリー・ランゲージ・ポリシー(Family Language Policy, 以下FLP)」研究 は、子どもの言語習得と、言語政策という2つの領域をベースに、これらミクロレベルとマクロレベルで起こる現象の相互作用を考察しつつ、近年ではより多彩なトピックを包含して発展しています。FLP研究動向は、「子どもの言語力」という「結果」に着目するものから、次第にバイリンガリズム・マルチリンガリズムを「プロセス」「経験」としてみる方向に変化しており、従来の西欧的核家族モデルにおける親の視点を中心とした研究から、当事者である子どもの視点を反映したものや、非西欧的文脈におけるFLPに着目した研究が増加する傾向にあります。FLPは言語文化の多様性に直結することから、“family”こそが子どもの言語習得に多大な影響を及ぼす動的な場であるととらえており、ここから、言語少数派の家庭内でいかに容易に主流派言語への移行が促進されるか、そしてそれは個人や一家族レベルを超え、社会集団的・国際的な要因といかなる相互作用を持っているか、など多くの興味深い分析・提言を行っています。

 コロナ禍にある今、FLP研究は私たちが直面している様々な不安や不均衡な社会状況に向き合い、これまでに受けてきた批判や限界を乗り越えようと、研究方法、研究の焦点、研究課題において新たな方向を見出しポストコロナ時代に向けて発展を続けています。大会ではFLP研究を牽引してこられたKendall King博士を基調講演者にお迎えし、FLP研究の最新の動向に加え、コロナ禍という困難な時代に私たちが直面する喫緊の諸問題についてFLP研究が「家族」という単位を通じてどう応えようとしているかについてお話しいただきます。

​ 講演は録画のオンデマンド再生と、Zoomによるビューイングで見られます。当日の質疑応答はライブで行い、日本手話と日英同時通訳が利用できます。

  基調講演
Family language policy: growing pains and new directions in post-COVID times

Kendall A. King, Ph.D.
Professor, University of Minnesota

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Over the last decade, a large and diverse body of research has coalesced under the banner of ‘family language policy’ (FLP). This talk reviews recent advances and developments in FLP research, considering critiques of the field, growing pains and new directions. Important critiques include limitations of who participated in past studies, what counted as ‘family’, and how that data was collected and analyzed. As FLP researchers advance their work in post-COVID contexts, these growing pains have prompted new directions in methodology and focus as well as new questions. These include: ‘What will the impact of extended quarantines be on child acquisition of home/heritage languages and on school/societal languages?’, ‘How does now near ubiquitous video technology shape who we interact with and how?’, and ‘What will be lasting impacts on educational equity given the uneven access to services that have defined the pandemic in many contexts?’ Indeed, questions of family language policy seem all the more crucial in light of the myriad social, economic and psycho-emotional crises brought on by the COVID-19 pandemic.  Worldwide, COVID-19 quarantines have centralized the family unit, but simultaneously put it under huge stress, threatening if not reversing the gains of recent decades in gender, economic, and racial equality. As this talk demonstrates, the pandemic and the social, cultural and economic shifts it entails, has made FLP more relevant, central, and crucial than ever.

ファミリー・ランゲージ・ポリシー:「成長に伴う痛み」とポストコロナ時代における新しい方向性

ケンドール. A. キング博士

(ミネソタ大学教授)

この10年間、「ファミリー・ランゲージ・ポリシー」(Family Language Policy; FLP)という旗印のもとに、様々なタイプの多くの研究が蓄積されてきました。この講演では、FLP研究の近年の発展と進歩を振り返り、この分野に対する批判、分野が成長するために乗り越えなければならない問題、そしてそこから見えてきた新しい方向性について考えます。重要な批判としては、過去の研究対象者に関する限界、何を「家族」とみなしたか、そしてデータの収集と分析方法などが挙げられます。FLPの研究者がポストコロナの状況下で研究を進めていくにつれ、こうした当該分野の発展のために避けて通れない課題は、方法論や研究の焦点における新たな方向性、新たな研究課題への取り組みを促しています。例えば、以下のようなものです。「長引く隔離期間が、子どもの母国語//継承語や学校//社会の言語の習得に与える影響はどのようなものになるか」、「いまや至るところに存在するビデオ技術は、私たちが交流する対象とその方法をどのように形作っていくのか」、「多くの文脈でパンデミック故に提供されている社会サービスへの不均等なアクセスは、教育の公平性にどのような永続的な影響を与えるか」などです。実際、新型コロナのパンデミックがもたらした無数の社会的、経済的、精神的な危機を考慮すると、ファミリー・ランゲージ・ポリシーに関する問題は以前よりさらに重要性を増していると思われます。新型コロナ感染拡大による隔離は、世界中で「家族」という単位を中心的なものとしましたが、同時に「家族」に非常に大きなストレスを与え、ここ数十年間に成し遂げられたジェンダー、経済、人種の平等における成果を、覆すまでにはならないとしても、脅かすほどになりました。この講演が示すとおり、パンデミックとそれに伴う社会的、文化的、経済的な変化により、FLPはこれまで以上に現実的な課題と直結し、中心的で極めて重要な分野となっています。